お燐もさとりも分かってる

作品集: 最新 投稿日時: 2014/06/07 19:29:40 更新日時: 2014/06/30 20:59:07 評価: 8/8 POINT: 57 Rate: 1.82
(ごはん、おいてる、だれ?)


怖い人かなと思った。
その時のあたいは人ってものがあんまり信じられなくなっていて。
だからご飯があってもそこに人がいるのなら飛びつくことはしなかった。


「警戒してるのならいいわ」


でもこの人は・・・どうだろう。
見た感じそんなに強そうには思わない。体格がある以上、勝てないだろうけど逃げることは出来るかも。
食べても大丈夫かな?

「そう、あなた「りん」って言うの?」


・・・今なんであたいの名前を呼んだんだろう。
確かに昔はそう呼ばれてたけど。


「不思議?そうね」


少しずつ近づいてみて・・・届いたのならご飯を食べてみよう。
敵だとは、たぶん思えない。


・・・うん、大丈夫だった。
この人は何もしてこなかったし、ちゃんとご飯に変なものも入ってなかった。



「うちに来る?」
「みゃあ」



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○月×日

猫を拾った。
というより、ついてきた。

私はまだ地霊殿に来たばっかりで。やたら広い家には私と妹以外誰もいなくて。
そしてその妹ですらもふらふらとどこかへ出ていってしまって。

孤独だった。そんな折にこの子に出会った。
「りん」という名前があったらしい。

路地裏で見かけた。
人とのふれあいを覚えてて警戒心はあまり無い子だった。 
狭い横穴で暮らしていた。猫ぐらいの大きさしか通れないほどで、そこに入られると私が手を出せない。

元飼い猫だった。捨てられた事情は察するに余りあるが、人懐っこく私にすぐ慣れた。
歩いてくると、ついてきた。



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だだっ広い場所だった。
探検するには最適だけど、だいたいの場所は暗くて、それでいて誰もいなくて。
床は温かいから苦じゃない。


あいつがいれば呼んでやりたかったけれど、どこに行ったんだか。
犬に追われてびっくりして逃げてしまってそれっきりだ。




あたいは、拾ってくれたこの人をたくさん手伝いたかった。餌をくれた恩とかたくさん含めて。

いつだって優しく撫でてくれた。
温かい膝の上にいられて色んなことを話しかけてくれた。

朝起きたら毎日取りに行くらしい紙の束を先に起きて持っていったり、
あたいが自分で狩った獲物をあげたりして、とにかくこの人に喜んでもらおうと思った。





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○月 □日


地霊殿がけっこう騒がしくなってきた。


一つ飼い始めると後はどんどん敷居が低くなっていくとでも言うのだろうか。
お燐が呼び寄せたり私が拾ってきたり、何やら一気に増えてきた。

残念ながら全てに手は回らないので共食いだけはやめるように刻ませて、餌を置いて後は放し飼いだった。
そういう風にやっていると、リーダー役というのが必ず出てくる。
少なくとも猫に関しては一番ここにいるのが長いお燐がまとめているようだった。

それにお燐はどうやら私の行動パターンを覚えて先回りしているらしい。
手紙や新聞がだいたい涎まみれで私の部屋にあったり、
どこからか虫の死骸や怨霊を持ってきては私の部屋に放したり。

手伝いたい気持ちはすごく伝わるのだけれど。まあ、あの子も悪気が無いから言うだけに留めておこう。


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「尻尾が、二つ・・・」

さとり様の指があたいの尻尾を握る。そこを握られるのはさすがに勘弁してもらいたく軽くぺしっとはねる。


あたいの身体に変化が起きた。
昔よりもすっごく動けるようになった。
尻尾も二つになったし、少しだけ頭で考えるってことが出来るようになった。


「にゃあ」(さとり様に通じるようになった?)
「ええ・・・そうね」

もうあたいが動物の時どういう風に考えていたかななんてのは覚えてない。
物心がついたようなもの、とさとり様は言ってた。あたいにその言葉の意味は分からない。
でも大事な記憶はいつまでもちゃんと残っているから大丈夫だと思う。

「にぃ」(人になりたいです)

「人になっても、いいことばかりでもないわ」


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○月 日


気がついたらお燐の尻尾が二股になっていた。


妖怪になった証だった。
人間の身体の中でアミノ酸がどういう風に働いてるのかを知らないように、動物にとって妖力がどう動いてるのかは知らないけれど
思考がはっきり読めるようになってきている。

猫の形をしているのにこの子はもう猫ではないのだ。



この子は数百年生きることになる。嬉しさと同時に、一つの懸念が過ぎってくる。このまま妖力を得続ければ、もしや、と。
後は・・・そうか。音にする器官が無いから、まだだけど。そのうちに、か・・・


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足・・・二本足で立つというのは難しい。なんだか重い。
視界がすごい高い。床が遠い。バランス崩したらきっと頭打っちゃうんじゃないだろうか。

前足が使える。引っかくだけだった、立ってるだけだった前足が。
さとり様がやってたみたいに。物が持てる、物が使える。


「あ・・・あー」

声が出る。
さとり様の言ってたことを真似して言ってみただけだけど。
しばらくして、形が急速に出来てくる。どういう風に声を出せば何という意味になるのかがあたいの中で出来ていく。
これが、人になるということなんだろうか。



そうだ、行かなきゃ。あの人に報告しなきゃ・・・





「さとり様ー!」






あたいはその人を見つけて思い切り飛び込んだ。
いきなり飛びつかれたその身体の芯は思いのほか弱くて、あたい達は二人で床に倒れこんだ。


「ああ、そう・・・お燐なのね」


さとり様はちょっとだけ驚いた顔だったけど、びっくりするほどの動きじゃなかった。
分からないけどいずれ来ることを考えてたみたい。ちょっと残念。

「ええ!そうですよ!」



それからあたいはさとり様にたくさんの言葉を伝えようとして。
だけどあたい自身の感情にあわせる言葉っていうのはなかなか出てこなくて。

「ああー・・・えっと・・・」


「まあ、そうね。まずは慣れなさい。人としてね」


見兼ねたらしいさとり様がストップしてくれた。
このまま延々と固まってしまうところだった。助かった。

とりあえず身を起こして、さとり様の言う通りに慣れるのを先に考えることにした。




でも・・・どうしてだろう。

そう告げたさとり様の顔はなんだか"嫌な顔"を浮かべていた。目が細くて口も締まって、悲しそうな顔だった。
地霊殿にやってきた客人へたまに浮かべる、あの顔だ。あたいに喋ってた言葉の意味は分からなかったけどその後なんだか険悪な雰囲気になるんだ。
だから、あんまり良くない顔なんだって何となく分かっている。




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△月 ○日


お燐が、とうとう人の姿になることを覚えた。


正直、怖い。


地霊殿に人が増えたということが怖いのではない。
私が怖いのは、あの子が"人間らしい脳"を持ったということ。



この子と同居して、やっていけるだろうか。
動物にはちょうどいいこの能力が、人の脳には効きすぎる能力。


お燐はとても嬉しそうだけれど、いずれ気付く。
私がここにいる理由。地霊殿という都から隔離された場所にいる理由を。


そしてその日が来る時が、ただひたすらに私は怖い。


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そんな昔の記憶を振り払って、あたいはとにかく努力した。


人間の動きにたくさん慣れなきゃいけない。それと言葉も覚える必要だった。
二又になってからさとり様が使ってた言葉はだいたい覚えたけれどそれ以外にもたくさん覚えなきゃいけなかった。
敬語というのがあったりとにかく、いっぱい。さとり様から本を借りてたくさん教えてもらった。


少しずつ人の動きにも慣れてきて
あたいは地霊殿の仕事を始めることにした。念願であるさとり様の手伝いだった。



猫の身では餌を貰うしか見ていなかったけど、さとり様は思いの外いろんなことをやっていた。
料理、洗濯、他のペットたちの世話。
書類仕事とかはあたいには手が出せないからそういうところ以外を頑張ろうと思った。








洗濯。

さとり様の服や布団、あたいに用意された服、ペットが使っているシーツ。
思いの他では無かったけれど一つ一つに力をこめてごしごしとやるのは意外と力を使う。

「あなたの服が濡れてるじゃない」

濡れた裾から垂れた濁り水が地霊殿の床を汚してしまっていたらしい。
全然気付いてなくて振り返れば水の途が出来ている。

「あと色移りが少し見られるわ」

緑色のグラデーションが出来てる白い服が取り上げられる。
色物と白いのは分けないとダメだということをあたいはよくよく教えられた。

ああ、怒られちゃったなあ。




皆の餌やり。

猫達には問題無い。見れば分かるしあたい自身が管轄してるところもある。
だけど問題は、さとり様もどこで拾ったんだか分からないけど爬虫類もたくさんいることだ。それも鰐や亀とか大きなやつがたくさん。
こいつらは何を考えてるのかいまいち分からない。表情にも出にくいし。

他のペットを共食いすることは禁止とされてるけど、遊びで手を出してくる奴はいる。
そして爬虫類と哺乳類じゃ耐久力っていうのはやっぱり違うようで。
あたいは鰐のしっぽのじゃれつくような打撃を思いっきり受けてしまった。少しだけ、歩くのに苦労するような状況になってしまってる。
じわじわとたくさんの鰐が来る。共食い禁止と教えられてるはずだけど本当に食べられそうな気がして、怖い。

「騒がしいと思ったら」

ああ良かった。さとり様が来てくれた。
昔に救ってくれた人は今も救いに来てくれた。
でもまあ情けないですね、あたい。



買い物。

メモにある通りのものを買ってくるだけだった。食べ物の名前は覚えやすいから分かる。
確か"お店"というのは同じようなのがたくさんあるのは探検してて知ってるから、ちょっと見て回ってみよう。

その結果、さとり様から貰ったお金でメモの物とリンゴが一つ多く買えた。
うん、これは別にいいだろう。出さなくて。


「出しなさい」



ダメですか。

「賢いことは褒めるけど、悪巧みするにはまだ早いわ」

さとり様には隠し事というのは通じなくて。
結局は余分なもの含めて全部をさとり様に渡すことになった。
夕食後にこっそりとあたいにだけリンゴタルトが出てきたのはとっても嬉しい記憶として今も残っている。





で、あー、うん、何か、結局さとり様に色々と教えられてしまった。
何度かやってく内にマシになったけど結局は面倒を増やしてしまったなと少し思う。


「いいのよ」


あたいは、頭を撫でられる。

動物の時は何か失敗するとすごい勢いで怒られてたけれど、人になってからは何だかこういう風に叱咤されている。
物足りないとかじゃないんだけど、変だなーと思う時はちょっとある。
まあ、それでもやっぱりあたいとしてはもっとしっかりやっていきたいって思っている。


「申し訳ありませんでした」 


「・・・そういう言葉も覚えたのね」  



・・・さとり様はまた眉をひそめて目を細める"嫌な顔"を浮かべる。
なんでだろう。この顔はあたいが失敗した時ではなくて、何かが成功した時に浮かべる気がする。
家事で失敗した時は苦笑いみたいなもので許してくれていたのに。
あたいは、この"嫌な顔"のほうが怖い。怒られるのは覚悟が出来るけど、この顔は本当に不気味だ。





それからしばらくして。



あたいは少ししょぼくれて猫の姿でしばらくあっちこっちをうろうろして、気分を変えてきて。
応接室に行くとソファのところで本を読んでいるさとり様に出会った。
ちょっとだけ気まずいかなって思ったけれど、やっぱりあたいとしては本能には抗いがたく。


「にゃあ」


失礼しますよ、ってぐらいにすっと近づいてぴょいんとさとり様のスカートの上に飛び乗った。
全身にさとり様の温もりを感じる。柔らかくて、それでいて落ち着ける至高の場所だ。

「にゃ」


何かあるのなら話ぐらい聞きますよって感じで一鳴きする。猫の時みたいにさとり様の話を聞くのもあたいの一興だった。
多くはあたいの体調のことだったり地霊殿の環境だったり、たまに仕事の愚痴なんかもこぼれてきたりした。
今の姿だとあたいからは話せないけれど、それは昔からだし。

「そう」

でもさとり様は結局のところ本へと視線を戻してしまった。そのままじっと沈黙で、本をめくる音だけしか奏でなくなった。
・・・、やっぱり妙だなあ。前までは本読んでても何してても結構話しかけてくれてたんだけど。


「気にしないで」
「みゃぁぅ!」

あたいの退屈だと思う心を読んでの反応かのごとく背中を大きく撫でられる。慰められるかのようにあたいは頭から背中まで弄ばれた。
さとり様の手はそこから次第になでなでからこりこりに変わる。耳の裏や喉がさとり様の指先で刺激されてしまう。
何か考え事でもしようとしてたんだけど、まあいいや。もう何も考えられなくなる。
猫の姿だとこういうのがあるから、幸せだなあ。





あたいは、まだまだこれにきちんと返せるぐらいに役に立ててない。
もっと頑張って、完璧になって、たくさんさとり様に構ってもらおう。だから今は、この感触に身を任せるとしよう。



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☆月 ○日

難しいと思う日が続く。

最近、ちょっと頭を撫でることに躊躇している。
人の形をしていてそれでも動物扱いしてしまっているようで。次第にそういう事も恥ずかしがるようになるだろうか。
「一人で寂しい」のと「二人以上いるのに寂しい」のでは大きく違う。嫌われずに過ごしていけるだろうか。


人と付き合うというのは、難しい。
たとえ自分で育ててきたような子であっても。



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人の身体になれても発情期ってのは結局起こってしまうんだなあ、って。






猫だった時には牡に会うたびにあたいはすっごく惹かれてしまっていた。
でも、どうしてだろう。人になって考えを持つようになった途端に何だからそれが憂鬱になった。

普通の猫のじゃ・・・痛いのだ
猫の牡の股にはトゲが生えている。それを、今のあたいは拒んでいるのだ。
猫の時にはそれが普通だったと思っていたのに、今となってはそれの痛さがすごく億劫なのだ。



さとり様に相談しようか。

でも、あ、いや、そうだ。どうせバレるのだ。
こうやって悶々としていたところを通りがかればすぐにバレる。
さとり様にとってはあたいは丸聞こえなのだ。


"いいことばかりじゃない"


さとり様のいつかの言葉を思い出す。後悔をしている訳ではないけども、今はその言葉が重く感じていた。



「お燐」


躊躇とかは少しあったけど、あたいはさとり様の部屋へと向かった。
こんな状況でもやることっていっぱいあるし報告もしなきゃいけないから、って自分に少し言い訳をしながら。


「そろそろ発情期なのね」
「あ・・・いえ」







「・・・はい」


やっぱり、恥ずかしかった。猫の時にさとり様の前で発情期を向かえることなんて今に始まったことじゃないのに。
人間になったらどうしてこんな感覚になるのだろう。

「猫の・・・は、そう。・・・苦労してるようね」

今ので、あたいは読まれたのだろう。
さとり様には全部見えててそれで周りに解消してくれるような存在が誰もいないということも。


「人間の雄はここにはいないし・・・雇ってきましょうか」 
「いえ、あたいは・・・」 


性欲が溜まってるとは言えど会ってすぐの男なんて、そんな考えがふっと出てきてしまった。
やはりこれも、人化の弊害だろうか。




「・・・お願いします」




ゾクッとした。・・・見てしまった。あの"嫌な顔"だ。
さとり様のあの顔を見るのは、嫌だ。悪い事をした気分になる。
どうしてだろう、あたいが人型になってからはあの顔をすごく多く見るような気がする。




「ああ、ごめんなさい・・・違うのよ」

さとり様がうろたえる仕草を見るのは新鮮だった。先読み出来るさとり様はそういう事に縁遠いと思っていたのに。
失敗する時ってあるんだな、って思った。


「私で大丈夫かなって思っただけ」


予想外の答えが返ってきた。
まさか、さとり様と?なんて、ドキドキがどんどん増していった。






あれから導かれるように、さとり様の部屋に招かれた。
さっきの話があったその日の夜の話だ。


「・・・ひゃあ!」

さとり様に思いっきり近づかれただけであたいの頭はクラクラした。
日頃使ってる薔薇の香水の匂いにきゅんとなる。押し倒してそのまま貪りたくなるほどの衝動が沸き上がる。
でもさとり様だ。あたいの主人だ。そういう事をしてしまえばきっと嫌われる。


「ほら、ベッドに横になりなさい」



さとり様に誘われ息荒くあたいは着ていた服を脱いでいく。
頭がぼーっとしている。この部屋がいたく暑い。どんな風になってもいいからとにかくこの服を脱ぎたい、それぐらいの暑さだった。

「さとり、さま・・・あたい、はやく・・・」
「無理して喋らなくていいのよ」

「猫みたいに、してなさい」

「・・・にゃぁ」

言葉を話すよりは、こうして鳴くのははるかに楽だ。
気を使ってくれたのだろうか。でも、さとり様と一緒の姿なのにこういう風に口にしているのは・・・なんか妙だ。
あたいの心を読んでしまうさとり様なら何も問題は無いのだろうけど、しっくり来ないのは何故だろう。

唇が何度も指でなぞられる。さとり様はあたいの目をじっと見ている。取り込まれそうなほどに大きな、存在を感じる。


口づけを降らせていく。

「うあ、にゃ・・・」

少しだけ声が漏れて、そのあとすぐに鳴き声に変える。
さとり様が望むように。

「みゃぁ・・・」

さとり様の小さな両手があたいの顔を包む。
少し冷たい肌が今のあたいにとっては心地良い。枕に包まれたみたいにぼんやりとさとり様を眺めてしまう。
そこから優しい手は移ろってあたいの肌をなぞっていく。
耳、リボン、そして髪。筆になぞられたかのように気持ちいいの道筋を描いていく。


「くすぐったい・・・」
「話さない」


口を軽く押さえられる。たしなめられてしまった。ちょっとだけ、怒っているみたいだった。
話をしたいなって思うことは時々あるけど、さとり様の言う通りに今はしよう。


さとり様の手は更に下に行く。胸からお腹に向かって行ったり来たりを繰り返す。
なんだっけ、懐かしい。そうだ、あたいが猫の時にお腹向けて寝っ転がってたらこういう風にされてたっけ。
すっごくくすぐったい。でもこれはその時に撫でられたような逃げたくなるようなくすぐったさじゃなくて、もう少し、痺れるようなそんな感じ。

あたいの肌は捏ねられる。
さとり様の掌で張り詰めた胸を押し込んでいくように、お腹もいっぱいに塗り潰される。
猫の時にいっぱい撫でられた手、今度はあたいの肌をいっぱい撫でてくれている。
さとり様の優しい手はいつだって大好きで、じっと身を任せていられる。
一番最初に拾われてきた時はこんな風になるなんて思いもしなかったけれど、今は幸せだと思う。



暑さにやられたあたいのナカはもう、少し撫でられただけでどろどろなぐらいになっていた。
にちにちと、さとり様があたいの入り口の周りを擦って音を立てている。すごく恥ずかしくって、思わず目を閉じてしまう。
さとり様の手が頬に触れた。びっくりして目を開くと、少し意地の悪いような顔があって、あたいの恥ずかしさに火をつける。


さとり様の指が、ずぷりとあたいのナカに入る。



「にゃぁぁ!」


大きな気持ちよさが走った。


さとり様の指は淡々とあたいを攻めてくる。
牡に攻められるような大きな感覚は無いけれどすごく的確に痺れるところをつついてくる。
二本の指の固いところがナカをなぞってくる。奥の、中の、左へ、右へ。
あたいの心をいっぱい読んでるんだ、それできっとどこがいいかって探って、それで一番のところを探してる。

「にゃあ、あああ・・・」
「ちゃんと、思ったまま声出しなさい」


恥ずかしい気持ちとかいっぱい出てきてそれなのに
あたいの腰はいっぱい浮いて、さとり様の指をもっと欲しがる。根本まで、たくさん。


「さとり、さま・・・!」
「いいから」

すごく早くさとり様の指が動く。出ていって入ってまた出て。
あたいのナカから水が漏る。音が聞こえてくる。空気が入った音がする。さとり様があたいの顔を見ている。
恥ずかしいのに気持ちいい。

「に、にゃぁ!にゃあぁぁ!」

考えるのが飛んでいく。さとり様の指であたいが持っていかれる。すごい、身体がもう言うこと聞かない、伝えたい、さとり様に、
だから必死でいっぱい鳴いて、伝えたい、

「そのまま、身を任せてていいの」

さとり様の動きが激しくなる。さっきよりもっとずっと早く。あたいのナカを削るように。
シーツを掴まないと浮いちゃう、さとり様の指から逃れられない、

「にゃ・・・」

身体が固くなっていく。全部の感覚がナカへと注がれる。返ってくる。全身に気持ちいいのが広がっていく。
首を反らしたり足を伸ばしたり、してないと壊れちゃう。さとり様から注がれたたくさんの、この気持ちよさに





「ああああぁぁぁっ!」










あたいは、大きな声が出てしまっていた。









しばらくして、さとり様の指が離れていく。
あたいは、ベッドの布団にぐったりと沈んでいく。腰が重くて、起き上がれない
さとり様はあたいの髪を撫でて、そっと微笑んでくれた。




「好き・・・です」 

「言わなくても、分かるわ」





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☆月 △日

今日初めて、お燐の人としての姿を見た。「生まれたまま」とよく表現されるがお燐の場合、正しいのかしら。
やっぱりもうって言うと変だけれどあの子は完全に人の姿に慣れていて、複雑だ。


お燐が発情期になった。人化してからは初めてのことだ。
というより、人の姿になってもそういうのはあるというのに驚いた。
だいたいのことは人がベースなのに、なぜ発情期というのが出てくるのだろうか。日が浅いからだろうか。

それでいて相手が誰でもいい、という訳でもなくなってるらしい。
人の価値観が根付いてきているということだろう。少しばかり厄介だ。



そして、私がやったことは正しかったのだろうか、分からない。とっさに出た言葉で相手をしてしまった。してしまった、と言ってはあの子に可哀想か。
本当は無理矢理にでも牡を当てがうべきだったのか。でもそれをやれば間違いなくあの子は泣くだろう。

あの子はまた私への信頼を深めてくれた。だからこそ私は心苦しい。きちんと導けるだろうか。

矛盾している。無駄だ。 分かっているのに。

たとえあの子から言葉を奪っても、どんどん振る舞いも頭も人らしくなっていく。
こんなことやっても、無駄なのに。


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さとり様は"嫌な顔"をする頻度が増えたと思う。


お仕事をだんだんと失敗もしなくなってきた。
最初の頃はたくさんダメなところもあってそれを言ってくれたけど、少しずつ直していった。
だけどさとり様は言えそうなことが無いとあの"嫌な顔"を浮かべそうになる。
どうしてだろう・・・あたいには、分からない。さとり様は分からない。ずっと一緒にいるのに、どうしてだろう。






「ん・・・んむっ・・・」



さとり様のまとめられた二本の指を咥えている。
これからあたいのナカを掻き回すのだろうこれを、舌でしっかりと濡らしていってる。
今日もやっぱりあたいは手を使うことは制止されていて。それで一生懸命に顔を揺らしてさとり様の指を濡らしている。


発情期にならずとも、あたいは、さとり様と一緒に夜を過ごすことが起こるようになった。
もっぱらはあたいの方からがそう思うことだった。
あたいがさとり様に会って「近づきたい」とか「遊んでほしい」とか思うと、忙しくない日の夜に付き合ってくれた。
頻繁というほどでもないけれど、それでもあたいは幸せだった。



不満があるとすればこういう夜のことだった。



さとり様は唇や顔にキスする事やこういう指の用に舌を使わせてくれたりするけれど、それ以外はさせてくれなかった。
手で触れようとするとなんだか嫌みたいで、ベッドの上でも服もあたいだけがいつも脱いでいた。
なんだかあたいだけがお世話になってるみたいで、ちょっと奥底では空しい感覚だった。



知られてる、はずなのになあ。

でもそういう事を思うとさとり様は決まって"嫌な顔"をする。
だからしょうがない、それでもいいって思ってたんだけど、だけど・・・悲しさは募っていった。
あたいもたくさんしたいのに。さとり様に触れてしっかりとご奉仕したいのに。それを拒まれてるようだった。

さとり様は、まだあたいに何も許してくれないのだろうか。

「ぷは・・・」

さとり様の指を隅々まで咥えていって、ふやけるぐらいまであたいは唾を伸ばしていった。
隙間も無いほど指はてかてかしてこれからあたいのナカに入るんだろうって、考えるだけで下のお腹がジュンとときめいた。
さとり様はたった今濡らした指をあたいの下着の中に入れて、それで片方の手であたいの頭を撫でてくれた。


「あの、あたいも、さとり様に」


何かしてあげたかった。
いつも快感を与えてくれるけれど、さとり様の身体にはなかなか触れられなくて。
本当に、あたいは、さとり様と一緒にいられてるんだろうか。一緒の場所なのに何だか層が違う気がして。

頭を撫でてくれてるのに何だかそれが逆に惨めに思えてくる。
あたいもたくさん勉強したのに。
さとり様を傷つけないように、人の身体についてたくさん学んだのに。

「いいから」

それがふいに悲しくて。

「あなたは」

また、告げられる。
あたいはさとり様にまた言われる。

やめてと願う。けれどさとり様の口はいつもより強い。

「何も考えないで」



「でも・・・!」

あたいは、我慢が出来なかった。
思わず撫でてくれてたさとり様の手を掴んだ。どこか避けられているような気がして、それで耐えられなくなって。


「っ!」





あたいの手は、弾かれた。 





びっくりさせてしまったのだろうかとか思わずやっちゃったのだろうかとかたくさん色んなこと考えたけれどそれでもどうしようもないぐらいに大きな、
すっごい大きな絶望感があたいに襲いかかってきた。





「あ・・・」



さとり様の呟く声がした。
あたいの中から悲しい寂しいって気持ちが湧き上がって、くる。もう外で何が起こってるかなんて、分からない。

「・・・お燐」

「・・・う」


顔を見せたくない。
すごい黒くて何もかもぐちゃぐちゃな色んな感情が溢れてくる。
全部拒まれた気がしてあたいのいていい場所がここでいいのかってそんな気になってきて







「あああああああああ!あああぁぁぁぁ!」




涙が止まらなかった。
あたいの中で、何かが切れた。









さとり様の手に拒否された。








優しく、撫でてくれた、手に。
溜まり溜まったものが破裂していくように感情が止まらなくなった。
白くて何も無いところへ、落ちていくような感覚だったそれだけに囚われた何もかも投げ捨てるほど強い感情にしか襲われなかった。

ようやく、頑張って、人になれて。
それなのに役に立ててない自分が辛い。さとり様に避けられてる自分が辛い。



「どうして・・・」


「どうしてですかなんでですかあたいもっと頑張りたいのにさとり様の力になりたいのになんでさとり様はあたいに何もさせてくれないんですか構われたいのに大変そうだから力になりたいのになんでですか」



思いつく言葉だけ全部ぶつけていた。形になってないだろうけど、それでも言わなきゃならなかった。さとり様の顔も何も見ていなかった。見ればあたいは留めてしまう。ここで止まればあたいには何も無くなるような気がしてただひたすらにぶつけ続けた。
ずっとひどく悲しくてずっとずっと泣いていた。見えない、ずっと、さとり様が、どこにもいない。近くにいるのにどこにもいない。


拭っても拭っても涙が止まらない。
思想はもっと、最悪の方向へと向かっていく。


認められてない。あたいは、認められてないんだ。きっと嫌われてるんだ、あたいは。
もうさとり様は前のようにきっとしてくれないんだ。可愛がっても、お昼寝も許してくれないんだ。
人になったから、またあたいは置いてかれるんだ
頑張るつもりが、ずっとあたいは足引っ張ってて、最悪だったんだ、ずっと、ずっと邪魔してたんだ。


「違うの、お燐、そんな事じゃ・・・」


見かねたんだろう、さとり様があたいをぎゅってしてくれている。
でも、その優しさがもう辛い。役立たずだったんです、あたいは。無駄なことばかりして、たくさんの邪魔ばかりして、



もう分かっています。猫のままでずっといるべきでした。手伝おうなんておこがましかったんです。




ぐいっと、さとり様の身体を引き剥がして、それで



「すみま、せん!ごめんなさい、あたい、もう・・・」
「お燐!」



服だけ持って、あたいは、ここから飛び出した。
聞こえる声を聞かずに、あたいはとにかく走り出した。



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■月 ■日



やってしまった

落ち着かない、どうしようか、落ち着かない 落ち着け


探し回った。けれど、見つからない。私の足じゃ追いつかない。
猫達を動員して探しているけどまだ報告は無い。

お燐は姿を見せなくなった。嫌われただろうか 考えないようにしていたけどやっぱりいないのはショックだ。
どうしよう。
「なんで泣いたか」なんて分かりきってることだろう 日に日に不満が溜まっていってるのを知ってて怖がった
私が悪い。 あの子の身体を直視するのが怖くなっていった 人になっていって心が作られていって隠したい事をどんどん読んでしまって
「無視して悲しまれるのはいやだ」と中途半端に近づいて結局傷つけて 



傷つくことを恐れて傷つけるなんて馬鹿じゃないか

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あの路地裏。
お燐が元捨てられていた場所。 



ここで出会った場所。ここにいて出会って、二人で家に帰った。


「・・・お燐」


来てると思ってたし居ると思ってた。
来てたし居た。

顔は、合わせてくれないようだ。当然だ。
姿も闇に隠れて見えない。あくまで声が聞こえるからお燐がいると思っている、ただそれだけだ。




「あなたにたくさん謝らないといけない」





それでもなお言わなければならない。
ちゃんと、自分がやったこと、やってしまったことを。



「私は」





「あなたの成長を阻んでいた」





「私は・・・ずっと嫌われながら生きていた」

「誰もいなくなって寂しいところにあなたがいてくれた」


この路地裏でお燐と出会った。
捨てられた猫だと分かってなんとなく守りたくなった。手元に置いておきたくなった。
似てるって思ったから。私と。


「動物のあなたがいて嬉しかったの」


お燐の振る舞いに癒されることはたくさんあった。
辛い時には側にいてくれて、ぎこちないながらも手伝おうとしてくれて。



「だから・・・あなたが人間になっていくってことが怖かった」



動物のままでいい、なんてとてもじゃないが言えなかった。
悩んでしまった。妖力を蓄えていくお燐を見て。無邪気に成長を喜ぶお燐を見て。長い間、ずっと。



「私の目があなたの読みたくないところまで読んでしまうかも知れない」

「それで、離れてしまうのが怖かった」

「妹以外でこんなにも接してくれる人がいたことが嬉しいから」


きっと、また嫌われるだろうって思った。
人の姿で生活すれば否が応にも隠し事は出来るだろう。その時に決別されてしまうような気がして。


「だからあなたをどうしても・・・動物みたいに見ていた」

人として認めるのが怖くて。どうしても、手伝いが成功した時に複雑な顔を浮かべてしまっていた。
その時の顔をお燐が恐れているのを知ってたのに。




酷いと思った。自分の都合だけでこんな風にやっていたなんて。
どんなに奪っていても心が埋まるなんてことは無いだろうに、逃れるように言葉は重なっていく。
泣いてしまって、どうする。お燐のほうが数倍の涙を流してるっていうのに。


「不安定はあなたも一緒なのにね」 


人になって一番大変なのはお燐だったはずだ。
指の動かし方や走り方、言葉。家事もたくさん手伝ってくれていた。それなのに私は、優しくしてあげられなかった。
お燐の手伝いを褒めてあげてもその反面で悲しげな顔を見せてしまった。人として成長していったってことだったから。


「動物のあなたをずっと追い求めていて、人としてのあなたを否定し続けた」


向き合う覚悟が無かった。応えてるつもりで全然応えてなかった。
自分の都合でお燐の全てを無碍にしようとしていた。恨まれてもしょうがないと思っている。
私自身が怖かったから、ってただそれだけで。


「私が、最初に決意しなければいけなかった」

人になれたことを後悔だけはしてほしくない。
立派な成長の証で、そこに至るまでにはたくさんの努力が必要だったのは分かっているから。
でも、私にそれは言えない。私が言ってはいけない。人の脳を持った事を後悔させてしまう私自身が言ってはいけない。


「もし、まだ・・・」


間に合うなら、なんて・・・そんな言葉を続けられるのだろうか。私に。
大きく壁を作って冷たく拒んでおいて今更、私に。

猫の影が奥へと消えていく物音がした。
「読まないで」と一言だけ、焦って私から距離を取っていくように。



「・・・ごめんなさい」







きっとこれが今生の別れになるだろう。
出会った路地裏から姿を離して、私は家路へとついた。


人の影が誰もいなくなった地霊殿へと。








あの日から一日、外で眠っていた。
地霊殿の敷地外で寝るのなんて十、いや、数十とかそれぐらいぶりだろうか。
昔はあれが当然だったはずなんだけどすっかり慣れきってしまってたんだなあと何となく思ってしまった。あの幸せな環境に。




あたいはそこからまた外が薄暗くなった後、猫の姿でさとり様の部屋の窓の近くにいた。


何というか、まあ地霊殿にけっこう入り辛いのだ。あれだけ泣いて飛び出してさとり様に心配かけて。
それでいて戻っていくってことが。
あれから少し頭を冷やしたら戻るつもりだった。でもまさか、さとり様が自分の足で来るなんて思わなかったから。しかも、すっごく心にずしっとくる言葉までかけられて。
居てもいいんだって分かったから、もうすぐに戻ろうって決意した。


さとり様がキィと窓を開けた。
どこか遠くを見ている。あたいにはまだ気付いてないようだ。あんなに、悲しそうな目をしているなんて。

冷静に見て、ああやって言われるとなんだかよく分かる。さとり様の"嫌な顔"は本当はただ悲しいだけだったんだ、って。
今は、どうだろう。あたいがいなくて辛かったり、思ってくれてるのかな。少しは。少しだけでも。


さとり様は今、戸惑っているんだと思う。
きっとあたいが二度と帰ってこない、って考えてたんだろう。泣いてた跡もうっすら見えるだろうか。
それぐらい悲しませてしまったのかなって思って。ちょっと申し訳ない気もした。




・・・今度帰ればちゃんと認めてくれるかな。
でもさとり様の話を聞いて、あたいもようやく分かった。今度はきっと大丈夫だと思う。
長く一緒だから何となく分かっている。大丈夫。




「にゃあ!」

そして、さとり様の姿を見たらもうあたいの足は動いていた。
不意を打つかのようにただ何も考えずいきなりさとり様の胸に飛び込んで。

「うわ!?」




弾丸に打ち抜かれたかのようにさとり様の身体は後ろへと吹っ飛んだ。あたいの身体が打ち抜いた。

「・・・お燐」

床に伸びたさとり様。あたいはその顔を舐める。
ごめんなさいとかありがとうございますとか色んな感情が出てくる。やっぱりあたいはこの人が好きだ。

「・・・おかえりなさい」

さとり様が、笑ってくれた。
動物の時に見せてくれたみたいに。色んなことを教えてくれたこの人は最後の最後に全部教えてくれた。
「人にならないほうが」なんて言って申し訳ありませんでした。あたいはやっぱりここにいます。

「いっぺんに言わなくても、大丈夫だから・・・もう」

そっと、あたいの全部を両手で包んでくれた。
この人の温もりを、ずっとずっと感じていたい。だからあたいは、今度はちゃんとする。


「・・・ちゃんとするのは、私だから」



しばらく、何も言わなくてもあたい達は身体を密着させていた。
ほんの少し離れてただけだったのに、すごく懐かしい。この人の腕の中は・・・やっぱり一番好きな場所だ。






一回だけさとり様の目をじっと見て、さとり様もそれに合わせてくれて。
きっと察してくれたのだろう。長くずっといるから分かる。

さとり様に背中を向けるように、あたいは人の姿へと変化した。


すぐに、あたいの身体は包まれた。温かくて柔らかいさとり様の腕の中に。

「・・・ごめんなさい」
「いいえ」

何度も、何度も。
さとり様はその言葉を口にした。あたいもそれを否定した。何度も、何度も。


「あたいも・・・たぶん言うべきだったんだと思います。ちゃんと」
「いえ、あなたは何も悪くない」
「そんな事は、無いですよ」


さとり様が全部読んでくれてたから。あたいはずっと甘えてた。
判断を下すのもまた人なのに、さとり様だって正解かなんて分かりやしないのに。


「さとり様」




「・・・何、喋っていいか、分からないですね」




あれ言おう、これ言おうって思ってたんだけどなあ。
さとり様の前にいざとなったら全然出てこない。すごく伝えたいこともたくさんあったはずなんだけど。

「いえ、十分に分かるわ」

そっか、さとり様は・・・。
でもこれであたいや動物の皆はたくさん救われている。だから、いいんだと思う。
さとり様が気に病まない方法を少しずつ考えていけば。


「・・・ありがとう」


振り向いて、抱き合って、同じ目線で。
今度は二人で一緒に柔らかいベッドの上へ。


その後に、キスだった。
前みたいにさとり様から近づいてくる唇。
でも、違うのは左手。指と指を絡めあって。手を繋いでるってだけであたいは人として認められてるような気がして。

布二枚を挟んで一つになった気がする。
一つの塊だったさとり様の温もりが今はあたいの大切な半身になったような感覚。



「お燐」
「はい」

もう一回立ち上がって、二人でベッドに足を沈めていく。

さとり様の服を脱がしていく。ハート型のボタンはちょっと外しづらかったけど、どうにかこうにか。
ピンク色の下着を少しずつ散らしていって、最後に肌の白い裸体があたいの前に現れる。
ずっと細い身体なのに、あたい達のことずっと育ててくれて・・・ってなんだかそんなことを考えてしまう。

「そんなに見ないの」

ちょっとだけ恥ずかしいのかな、って思う。
あたいのこと視界に入れてくれてるんだなって、少し思えて嬉しい。


手を伸ばしていく。届かなかったような、白くて細い肌。冷たいように見えるけど触ればちゃんと温かい、さとり様。
息がかかるぐらいまでの距離にいてさとり様の肌をなぞっていく。

「ん・・・」

いつもしてくれていたように。
見て覚えるのはあたいは得意だったから、さとり様にちゃんと返してあげられるように。
与えてくれた気持ち良さを今度はさとり様に。

「焦らないで」
「ええ、大丈夫です、はい」

本当はちょっと手が震えている。あたい自身でちゃんと出来るかなっていう不安。
昔、猫だった時にさとり様の手を爪でざっくりやってしまったことを思い出す。
あの時は悪いことだって思ってもみなかったけど。

「人の爪は猫より鋭くないわ、だから大丈夫」
「は、はい」


さとり様の胸、その先端の乳首をきゅっとつまむ。

「んぅっ」

今まで聞いたこともない声が耳に入る。さとり様、感じてくれたんだろうか。
その後はやってくれてたように指でくりくりと弄ぶ。
上下するさとり様の胸に合わせて力を込めて、それでも込め過ぎないようにゆっくりと。

「お燐・・・それ・・・はっ」

首筋に舌を這わせて軽く噛む。
さとり様の細い首を舌で舐め唇で刺激をいっぱい与えていく。
同時に、片手もさっきの乳首を中心に全体を撫で回していく。身体の線、さとり様の細くて薄いところをつつっと。
お腹も撫でて下着ギリギリぐらいまで、ゆっくりだけどしっかりとした力で擦っていく。




気持ちいいことは全部混ぜればもっと気持ちいい。それも知っている事だから。









「お燐、もう・・・」


さとり様が腰を浮かせて、自分の下着を脱ごうとする。
把握したからあたいは手をかけてお手伝いする。ちょっと複雑そうな顔だったけど、恥ずかしいんだって今のあたいならよく分かる。


ちらっと目をやると、さとり様のナカはもう湿り気を帯びていた。

「感じてくれてたんですね」
「そう、ね」
「にゃぅん・・・」
褒められる代わりにあたいは顎の下を掌で撫でられた。
思わず猫みたいな声を出してしまう。人の身体でもこれをやられるとふにゃふにゃになってしまう。
あたいの弱いところなんだろう。



「じゃあ、失礼します・・・」


さとり様のナカに、あたいは指を折り曲げてその先を挿れた。爪とか、大丈夫かなって思ったけどさとり様の顔に苦痛は見られなかった。


さとり様の手があたいの首に回されて、二度三度ベッドが揺れて大きく顔が近づいた。

「お燐だって・・・十分出来てるじゃない」
「ひゃぁっ!?」

あたいの腰がすっごい揺らいだ。さとり様が指を挿れてきたのだ。
さとり様の愛撫をしているうちにあたいももう気持ちよくなってきていて、それで十分だった。



さとり様の指があたいのナカにあって、あたいの指がさとり様のナカにあって
あたいももう片方の手はさとり様の首の後ろに。二度と離さないぐらいにしっかりと。

「お燐・・・」
「はい・・・」


なんとなくの合図だった。

刺激が走ってくる。さとり様の指があたいのナカで動き回る。
何度も何度も気持ちよくしてくれた動きはやっぱり何度もあたいを気持ちよくしてくれて。
ナカの壁に触れてはまた別のところを触る。
ふとすれば崩れそうになってしまうほどにあたいの身体は動き回る。跳ね回る。

あたいだってたくさんさとり様を攻める。
ナカの熱気をかき分けてぬるぬるの中からさとり様の一番いいところを。

どこが良いのかとかまだ分からないけど、さとり様の顔を眺めながら探っていく。
さとり様の赤くなった顔と、細く笑みを浮かべてる顔が目の前にある。
余裕なく、けれどしっかりあたいのことを見ている。あたいに見せてくれている。


「お燐、いいわ、そこ・・・」

さとり様は教えてくれた。一番気持ちのいいところ。
さっきのところを激しく、けれど痛みにならないように時にゆっくり。
その強さに合わせるようにあたいのナカもさとり様は弄ってくる。あたいが痛い時はきっとさとり様も痛い。だから丁寧に。

さとり様の腕の力が強くなる。もっともっと抱き寄せる。さとり様を離さないように。あたいが支える。
あたいより小さい身体。だけどこの人にはきっと敵わない。それぐらい大きい。失いたくない。

「私は・・・あなたがいて、幸せだからね」
「あたいも、です・・・!」


ちょっとしたやりとりして、それで、にちゃにちゃという音からぐちゃぐちゃへ。

あたいの音、さとり様の音が聞こえる。さとり様に合わせるようにあたいも指を早めていく。
さとり様の吐いた空気が、あたいの吐いた空気が全部入り交じっていく。
ナカに入ってる指は速さを増しもう一つの太い棒にでもなってるようにあたいを攻める。下半身はもう意志に関係なく動いてしまう。


「ねえ、そろそろ・・・!」
「あたいも、です・・・!」

気持ちが、いい。さとり様が近い。見てくれてる。一番、深く、さとり様が動いた瞬間






「・・・っ!んん・・・っ!!」
「あぁ!うう、あああああぁ・・・!」













あたい達は、二人で大きく声をあげて




そのまま一緒に横になって、しばらくぎゅっと抱き合っていた。
さとり様の肌が、大きく感じられるみたいで、なんだか、懐かしい・・・感触。








-------------

■月 ○日


家族が一人増えた、って言い方でいいのかしら。



動物がいくらでも増えることも「家族が増える」とは言うけれど、人が増えた場合はどうすればいいのだろう。
同じ"家族"? でも、この二つってやっぱり決定的な違いがあって。
それを同じ言葉というのはやっぱりちょっと厳しい。



お燐は帰ってきてくれた。


今回の件でじゅうぶん分からされた。
あの子がいてくれたから私は助かっていた、仕事の面でも心の面でも。
唯一気になることは私の能力だけれど・・・あの子は受け入れてくれるみたいだ。初めてだった。そう言ってくれたのは。
お燐が拾われた時ってきっとこういう心境だったのかも知れない。本人にしか分からないだろうけど。


だったら私も、お燐に拾われたのかしら、なんてことにも


        〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  




「さとり様ー!」






「あら・・・どうしたの?」


執筆の作業中に失礼してしまっただろうか。
でもこっちも結構大きな報告しなきゃならないのだ。


「あいつが見つかったんです!」
「前に話してた烏の?」



あたいが猫の時に知り合ったあの烏。
半ば諦めてたけれどしっかり生きてたみたいだ。しかも、もう妖力が備わってる。
もしかしたらもうすぐ、あたいみたいになるのかも知れない。
そういう風なことをちょっと早口ながらも伝えた。だって、興奮してしまったのだから。

そんなのでもさとり様はしっかり受け取ってくれたみたいで。


「まあ、任せるわ。ルールだけはきちんと教えといてあげてね」
「はい!」



これからはまた忙しくなりそうだ。
もう少ししたら楽になるかも知れないけれど。



         〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




どうやら増える家族は二人になりそうだ。




お燐にはたくさんの迷惑と労力をかけた。
私がこの失敗を糧にしなければあの子の涙は報われないことだろう。
だから、しっかりと次に人間になるであろう子は向かい合おう。しっかり、泣かせないように。












今度はちゃんと人として。
「ペットが人間になる」って願望は一度は考えつくと思いますが
意外といい事ばかりじゃないような気もします。諸々と。

---
追記

>1様
ありがとうございます。ストーリー重視にしてみました

>2様
ありがとうございます。個人的には「地霊殿で最初に人型になれた動物がお燐」というのが好きです
初めて尽くしで色々と考えられるので。

>3様
ありがとうございます。「さとりと知り合う前からの親友」が実はちょっと枷でした
ストーリーとしては割と王道ですね。日記を混ぜていったのもその辺変化させたかったというのが一つ。
流れる文字列はまあしょうがないと思って頂くと幸いです、はい。さと燐はいいパートナーになってるといいなあ、って。
誤字は、うん、やってしまいましたね。修正しました。

>4様
ありがとうございます。ええ、まあ、それは思ってました。ストーリー物の薄い本って感じで、はい。

>5様
ありがとうございます。そそわだと少しあったりするんですよね>成長を恐れる話 正確に言うと「人間になるのに戸惑う」って感じですが。
テーマに関してはあえて遠巻きな風に。

>6様
ありがとうございます。
「人」に関してはだいぶ悩んだんですよね。「人型」だとテンポがどうしても悪くなりますし、あと「”精神的に”人間に近くなる」っていうのも除外されてしまいますし。
雄猫に関しては「確かに問題は無いけど人の形になれたし獣のは〜」ってとこですね。猫の方がサブになった、って感じ。

>7様
ありがとうございます。人間でもやはりペットが同等の存在になってしまったら途端に葛藤が始まってしまうでしょうね

>8様
ありがとうございます。「人になれば離れてしまうかもしれない。ずっとペットであってほしい」って考えてしまうのはある意味でしょうがないことでしょうね。さとりのこれまでってのを考えてみると。

>9様
ありがとうございます。常に一歩先が読めてしまうせいで足並みが揃わない覚の宿命でしょうね。

https://twitter.com/Highkaru
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2014/06/07 19:29:40
更新日時:
2014/06/30 20:59:07
評価:
8/8
POINT:
57
Rate:
1.82
1. 10 名無しの変態紳士 ■2014/06/11 18:47:00
とてもいい話でした。
2. 7 リラクシ ■2014/06/11 23:05:35
うーん、良い、良いさと燐ですわぁ。
視点の入れ替わりによって二人分の心情を楽しめて、おいしい作品でした。
すれ違う二人の思いのベクトルですが、私こういうの大好きです。
お燐視点からみるさとりへの攻めが個人的に好みでした。面白かったです。

書き方による(つかそこしか見てねーのかよって話ですが)作者予想をさせて頂きますと、外れていたら申し訳ないのですが、ハイKさんではないでしょうか?
いや本当、外してたらすみません。
もう一度、面白かったです。
3. 8 グランドトライン ■2014/06/15 23:02:54
ひょっとしたらタイトルはいなくなった烏が全てを見ていて語った台詞かもしれない。
……というのは考え過ぎか。

スペースの使い方が素晴らしく、文章も短く分かりやすくまとめられており、スラスラと気持ち良く読めました。
さとりの為にがんばる燐の心理描写や日記形式で綴られるさとりの葛藤も丁寧で、互いの気持ちをぶつけた後に和解するシーンはありきたりだけどやっぱり感動します。
ただ、表現の為とはいえ、句読点無しの平仮名だらけの部分は少し読みにくかったです。
それと誤字を一か所見つけました。

てかてかしいて
>てかてかしていて

しかし、中盤の一方的な愛撫から、ラストの互いに愛し合うネチョは描写が濃厚で、互いの壁を乗り越えたこともあって凄く感動しました。
さとりも燐も健気でかわいい。

もうこの二人は完全に夫婦だね。砂糖吐きながら祝福します。
4. 3 ■2014/06/22 09:23:13
雰囲気はとてもよかった。勃起度が足りない
5. 5 匿名 ■2014/06/22 16:58:55
基本点:1点
テーマ:1点(0〜3点)
エロさ:2点(0〜3点)
面白さ:1点(0〜3点)
一言感想:普通に良いお話でした。人間になっていくお燐の成長を恐れるさとりという話は初めて読んだかも。ただ、テーマの活かし方やネチョのエロさは平均を大きく上回るものという印象は無かったので、平均的な点数に。
6. 4 ぱ。 ■2014/06/22 20:12:04
親子の情を思わせる、被保護者の成長への不安と、自分勝手に閉じ込めたがる欲。
壁はどちらを囲っていたのかと思うと趣深い作品。

引っかかる点も数点。「人」はこの作品には登場しないため違和感。「人型」を指すとわかっていても、ん? となってしまいます。
それにお燐は原作で猫の姿に任意に戻れているのだから、雄猫との交尾は問題なく行えるのではないか……など、人型にまつわる謎がいくつか。
7. フリーレス toroiya ■2014/06/27 08:00:53
他人に伝わる言葉があるが故に本音と建て前ができてしまい、結果的に心を読むのが辛くなる
さとりが葛藤に苛まれるのも仕方ないですね
8. 10 tukai ■2014/06/27 22:49:45
かわいいです。とても良いです。
エゴで動くさとりんかーわーいーいー
9. 10 通りすがりのGさん ■2014/06/28 00:01:00
覚りの能力が逆に相互理解の妨げになってしまう、皮肉なものですね
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